「100点じゃなくて、100%。」膝を3度手術した今村卓也が、仕事もサッカーも諦めない理由

NAGAREYAMA F.C. PLAYER’S STORY|今村 卓也選手
「正直、このNAGAREYAMA F.C.で最後にします。」
入団前、今村卓也選手はそう伝えていました。
これまで膝を3度手術。NAGAREYAMA F.C.と出会ったときもリハビリ中で、いつ復帰できるか分からない状態でした。
それでも、サッカーを続けたかった。
同時に、これからの仕事やキャリアにも向き合いたかった。
現在は介護の仕事をしながら、仕事後には怪我を予防するためのトレーニングを行い、そのままチームの練習へ向かう日々を送っています。
そんな今村選手が大切にしているのが、「100点」ではなく「100%」を目指すこと。
怪我、仕事、社会人サッカー、地域との関わり。
さまざまな経験をしてきた今村選手に、今もサッカーを続ける理由を聞きました。
「いつ復帰できるか分からない状態」でチームを探していた
—— NAGAREYAMA F.C.には、どんな経緯で入団したのでしょうか?
今村:
「もともと僕の双子の弟と銀治さん(安芸代表兼監督)につながりがあったんです。
僕が『千葉でサッカーをやりたいから、NAGAREYAMA F.C.につなげてほしい』って弟にお願いして、最初に銀治さんと面談することになりました。
ただ、そのとき僕はまだ怪我をしていて。
復帰できそうな感じはあったんですけど、なかなかリハビリもうまくいかなくて、現実的にいつ復帰できるか分からない状態でチームを探していました。」
そんな状態で聞いたのが、NAGAREYAMA F.C.が掲げる理念やビジョンでした。
今村:
「『地域のインフラになる』というビジョンだったり、『エネルギーを届ける』という理念のことを聞きました。
僕自身も怪我の経験があって、本当に結構大変だったので、同じように怪我をした人とか、他にもつらいことがあった人に、僕が頑張っている姿を見てもらって『自分も頑張ろう』と思ってもらいたいという気持ちがあったんです。」
クラブの考え方と、自分がこれまで経験してきたことが重なりました。
そして、もう一つ大きかったのが「誰とサッカーをするのか」ということでした。
今村:
「銀治さんって、やっぱり熱い人なので。
どんなサッカーをするかというより、誰とやるかとか、誰が作ったチームなのかっていうところまで考えたときに、
『NAGAREYAMA F.C.でサッカーをしたい』
って伝えました。」
「このクラブで最後にします」と伝えた

怪我を繰り返してきた今村選手には、自分のサッカー人生が永遠ではないという感覚がありました。
今村:
「正直、自分の中ではサッカー人生をいつまで続けられるか分からなかったので、
『もうこのNAGAREYAMA F.C.で最後にします』
みたいな話は、銀治さんに最初の時点でしていました。
そのときは介護の仕事を次にやろうと思っていて、まず資格を取って、これからの仕事も考えていきたいという話もしました。
だからサッカーだけじゃなくて、その先のことも考えながら、仕事とサッカーを両立してどこまでできるか。
それをこのチームでやりたいです、って。」
しかも当時は、まだ満足にプレーできる状態ではありませんでした。
それでもクラブは、練習参加でプレーを確認することなく、今村選手の入団を決めました。
今村:
「『そういう思いがあるんだったら、じゃあうちでやろう』って。
そのときは練習参加もできなかったんですけど、それでも入団を決めてもらいました。
僕としては、すごく嬉しかったです。
自分のことを見てくれたんだなって。
もう感謝しかないですね。」
実は、社会人になって最初に所属したクラブでも、怪我の影響でプレーを見せることなく加入しています。
自分が苦しいときに手を差し伸べてくれた人たちがいた。
だからこそ、今村選手には強い思いがあります。
今村:
「(これまでに所属してきた)2チームとも、サッカーをする前に入れてもらっているんです。
ある意味、プレーだけじゃなくて、人として見てもらって入ることができたと思っているので。
そこは率直に嬉しいですし、恩返ししたいという気持ちは強いですね。」
「本当に、仕事もサッカーもやっていけるのかな」
入団を決めた一方で、不安もありました。
その一つが、仕事とサッカーを本当に両立できるのかということです。
今村:
「実家から通うと、片道1時間から1時間半くらいかかるんですよ。
その中で仕事とサッカーをやっていく。
しかも僕はまだ復帰できている状態じゃなかったので。
入団は決めてもらえたけど、本当に仕事もサッカーも頑張れるのかなという不安はありましたね。
時間というより、体力的に両方にちゃんと向き合えるのかって。」
現在も実家から職場、練習場へと通っています。
仕事が終わるのは18時ごろ。
しかし、そこからそのまま練習へ向かうわけではありません。
今村:
「仕事が終わったら、一回ジムに行っています。
ガッツリ筋トレをするというより、怪我をしないために体をほぐしたり、必要なトレーニングを20分、30分くらいやって。
そのあと車でグラウンドへ向かう感じですね。」
膝の手術を3回経験しているからこそ、再びピッチに立ち続けるための準備にも時間を使います。
長い移動時間も、今ではただの負担ではなくなりました。
今村:
「僕はキャリアとかも結構気になっちゃうというか、心配になるタイプなので。
通勤時間が、自分のキャリアを考えたり、サッカーを振り返ったりする時間になっています。
試合が終わった後なら、うまくいかなかったシーンを頭の中で振り返って、
『あのときどうすれば良かったかな』
って考えて、じゃあ次の練習でこれをやってみようって決めたり。
この生活になったおかげで、より自分と向き合う時間が増えたので、そこはプラスに捉えています。」
「サッカーと仕事を、分けて考えない」
今村選手には、学生時代から大切にしてきた考え方があります。
それは、サッカーとそれ以外の生活を切り離さないことです。
今村:
「大学のチームで大事にしていたのが、サッカーで学んだことを学業に生かして、学業で学んだことをサッカーに生かすという考え方だったんです。
両方を分けて考えない。
それは社会人になってからも同じだと思っています。」
—— では、サッカーと介護の仕事には、どんなつながりがあるのでしょうか。
今村:
「僕はディフェンスをやっているので、チャレンジとカバーだったり、プレーを予測したりします。
介護でも、利用者さんが怪我をしてしまうかもしれないとか、体調が変わるかもしれないとか。
そういうリスクを予測して、先に動くことで防げることもあると思うんです。
サッカーで『予測することが大事だ』『リスクマネジメントが大事だ』って学んでいるから、
仕事でも、
『こういうことになりそうだな』
『これ、先にやっておいた方がいいな』
って考えられる。
そうすると仕事もやりやすくなるし、職場の人からの信頼にもつながると思っています。」
——仕事で信頼を積み重ねることが、サッカーへの応援にもつながっている?
今村:
「仕事をちゃんと頑張っているからこそ、
『介護の仕事も頑張りながら、よくサッカーもやってるね』
『じゃあサッカーも頑張って』
って言ってもらえる。
そうやって応援してくれる人が増えるのは僕も嬉しいですし、チームにとってもプラスだと思います。」
だからこそ、今村選手は「社会人サッカー」の価値をこう考えています。
今村:
「サッカーだけやっていればいいのか、仕事だけやっていればいいのか。
そうやって分けてしまったら、違うと思うんです。
社会人サッカーの価値って、両方頑張るからこそあるものなんじゃないかなって、僕自身は感じています。」
「100点」を取れなくても、「100%」は出せる

今村選手の話の中で、何度も出てきた言葉があります。
それは「100%」というキーワード。
その考え方には、怪我によって思うようにプレーできなかった経験が大きく影響しています。
今村:
「高校、大学の頃は、『プロになるためには何が必要なんだ』『自分には何が足りないんだ』っていうことを意識しすぎちゃって。
逆に、自分が本来強みにしていた部分を出せなくなった時期もありました。
コーチから、
『お前の強みって何? 前の方が良かったよ』
みたいなことを言われて、グサッときたこともあります。」
さらに怪我によって、自分が思い描く「完璧なプレー」ができない時間が続きました。
そこで、考え方を変えたそうです。
今村:
「怪我で100%プレーできない時期もあったので。
じゃあ、100点を目指して自分が満足できないなら、100点じゃなくて100%を出して、応援される選手になればいいっていう考え方になったんです。」
結果としての「100点」は、自分だけでは決められません。
監督の評価。
周りの選手との比較。
試合の結果。
基準はいくらでも変わります。
しかし、自分がその瞬間に100%を出したかどうかは、自分自身で決められます。
今村:
「人間だから、やっぱり評価されたいとは思うんです。
でも、人によって100点の付け方は違うじゃないですか。
そこをいちいち気にしていたら、自分が疲れちゃうなって。
だからまず、自分の中で100%やる。
それでこの結果だったんだって受け止めた方が、前に進める感覚があります。」
さらに今村選手は、こんな言葉を続けます。
今村:
「僕の中では、後悔は絶対したくないんです。
悔しいって思うことはいくらでもしていい。
でも後悔はしたくない。」
思い通りにならなかった悔しさは、挑戦したから生まれる。
一方で、「もっとやればよかった」という後悔は残したくない。
だから100%を出す。
それが今村選手のサッカーへの向き合い方です。
「自分の試合が、その人にとって最後の試合になるかもしれない」

NAGAREYAMA F.C.に加入して、もう一つ変わったことがあります。
応援してくれる人への意識です。
前所属チームと比較して驚いたのが、地域に出ていく機会の多さでした。
今村:
「前のチームは、どちらかというとサッカーにフォーカスするチームだったので、地域に出ていく活動はあまりしてこなかったんです。
NAGAREYAMA F.C.に入って、
『これが普通なんだ』
『これが当たり前なんだ』
って最初は驚きました。
でも、ビジョンや理念があって、それを実現するために何が必要か考えた結果が、この地域活動なんだなって感じています。」
—— 地域活動を重ね、サポーターと直接話すようになったことで、どんな変化がありましたか?
今村:
「応援してくれている人が、わざわざ時間を使って試合を見に来てくれるじゃないですか。
もし僕を見に来てくれたのに、僕がやる気なさそうだったり、頑張っていないように見えたら、その人の時間を無駄にしてしまうと思うんです。」
介護の現場で働いていることも、その考え方に影響しています。
人は、明日も今日と同じように過ごせるとは限らない。
今村選手自身も、怪我によっていつまでサッカーを続けられるか分かりません。
そして、試合を見に来てくれた人にとっても、それが最後の観戦になる可能性はゼロではありません。
今村:
「もしかしたら、その人にとって人生最後に見る試合がNAGAREYAMA F.C.の試合になるかもしれない。
そう考えたら、
『今村、最後まで走ってたな』
『90分、本当に100%で頑張ってたな』
『負けちゃったけど、あれだけやって勝てなかったならしょうがないな』
っていう気持ちで帰ってほしいんです。
自分がその人たちにできることって、そういうことなのかなって。
『NAGAREYAMA F.C.の試合を見られて良かった』『今村が出ている試合を見られて良かった』と思ってもらいたい。
それは、地域活動をして応援してくれる人たちと関わるようになってから、感じるようになったことですね。」
「知らないまま、できないと決めつけないでほしい」
今村選手は、自分自身も社会人サッカーの世界へ進むことに不安を感じていたからこそ、SNSでも日々のトレーニングや感じたことを発信しています。
伝えたいのは、「こういう生き方もできる」ということ。
最後に、これから社会人になる選手、仕事とサッカーのどちらを選ぶか迷っている選手へメッセージを聞きました。
今村:
「一番は、知らないまま『できない』って決めつけないでほしいです。
僕自身、社会人サッカーについてそんなに調べないままこの世界に入った側なので、いろいろ不安がありました。
でも、本当に仕事もサッカーもやりたいなら、そういう環境や、そういうチームはあります。
それをちゃんと知った上で決断しないと、後になって後悔してしまうと思うんです。」
社会人になれば、仕事もある。
プライベートもある。
体力にも限りがあります。
すべてに本気で向き合える時間は、人生の中で決して長くありません。
今村:
「仕事もサッカーもプライベートも、全部100%でできる期間って、体力的に考えてもそんなに多くないと思うんです。
そういう時間は本当に限られている。
だから、一年でも二年でも短くていいと思います。
まず挑戦してみてほしい。
今実際にそれを経験している自分からすると、そう思いますね。」
膝を3度手術し、いつまでサッカーを続けられるか分からない。
それでも今村選手は、今日も仕事へ向かい、体を整え、グラウンドへ向かいます。
目指すのは、「100点」の選手ではありません。
仕事でも、サッカーでも、そのときの自分にできることを100%やる。
悔しい思いはいくらしてもいい。
でも、後悔は残さない。
今村卓也選手が社会人サッカーを続ける姿そのものが、「仕事か、サッカーか」という二択に悩む誰かにとって、一つの答えになっています。
