「今のままだったら、何も残らないと思った。」サッカーも仕事も、本気で選ぶ。山室伊ノ介の現在地

NAGAREYAMA F.C. PLAYER’S STORY|山室 伊ノ介選手
サッカーを続けたい。
でも、社会人になれば仕事もある。将来のキャリアも考えなければならない。
「サッカーか、仕事か」。
そんな選択に悩む選手は少なくありません。
NAGAREYAMA F.C.で4シーズン目を迎える山室伊ノ介選手も、かつて「サッカーを続けた先に、自分には何が残るのか」という不安を抱えていました。
現在はサンコーテクノ株式会社で営業職として働きながら、選手としてプレーを続けています。
NAGAREYAMA F.C.への入団を決めた理由、仕事との両立、クラブで得た経験、そして今もサッカーを続ける理由について、山室選手自身の言葉で語ってもらいました。
「サッカーが終わった後、今のままだったら何も残らない」

—— NAGAREYAMA F.C.へ入団する前、不安だったこととして「仕事」を挙げていました。どんなことを考えていたのでしょうか。
山室:
「NAGAREYAMA F.C.に来る前も、社会人として仕事をしながらサッカーをしていました。
でも、当時のチームを退団するきっかけになったことの一つが仕事だったんです。
自分の中では、サッカー人生って長くても30代半ばくらいまでできればいいなと思っているんですけど、それが終わった後に、『今のままだったら何も残らないな』というのがあって。
ちゃんと将来を見据えた仕事ができないと、サッカーの方にもなかなか集中できないというか。
『将来、大丈夫かな』っていうことを感じながらプレーしていたところもあったんです。
それもあってチームを変えようと思いましたし、NAGAREYAMA F.C.に入団するときも、仕事のところはちゃんと決めたいと思っていました。
自分が納得できるような仕事ができるのか、という不安は最初ありましたね。」
サッカーを続けることだけではなく、その先の人生まで考えた上でクラブを選びたい。
それが当時の山室選手にとって、大きなテーマになっていました。
「自分は営業をやりたいです」
—— 実際にNAGAREYAMA F.C.へ入団して、仕事についてはどうでしたか?
山室:
「仕事をどうしようかってなったときに、いくつか紹介してもらいました。
実際に面接のような形で何社か伺ったんですけど、自分の中では『なんか違うな』と感じるところもありました。
もちろん企業さんが悪いということではないんですけど、自分がやりたいこととは少し違うなと思ったんです。
そこで、『自分は営業をやりたいです』と伝えました。
そのときにサンコーテクノを紹介してもらって、自分が希望していた営業職として無事に入社することができました。
本当に感謝しています。」
—— なぜ営業職だったんでしょう?
山室:
「今までサッカーしかしてこなかった中で、自分が社会に出たときに、今持っている能力を一番活かせるのが営業なのかなと感じていました。
コミュニケーション能力のところとか。
そういうことも含めて、若い段階から営業職をやっておくことは大事だなと思っていたので、希望していました。」
—— 営業をまず経験して、その先のキャリアを考えたいのか。それとも営業という仕事を極めていきたいのでしょうか?
山室:
「正直、営業を極めていきたいという方が気持ちは強いですね。」
サッカーを続けるためだけに働くのではなく、仕事そのものにも本気で取り組みたい。
その希望をクラブへ伝え、自分が納得できる仕事を選択できたことは、山室選手にとって大きな変化でした。
「社会人サッカーをしながら、こういう環境で働けるのは魅力的」
—— これまで複数の社会人クラブを経験していますが、NAGAREYAMA F.C.の仕事の環境についてはどう感じていますか?
山室:
「僕が今までいたチームでは、今みたいな環境で仕事ができる感じではなかったんですよね。
他のチームの話を聞いていても、社会人サッカーだと、そういうケースが多いのかなっていう印象はあります。
だから仕事を選べて、正社員として働けて、その中に上場企業のような会社も選択肢としてあるというのは、すごく魅力的なところだと思います。」
現在の職場にも、サッカーを続けることへの理解があります。
—— 職場ではサッカーとの両立について、どんな反応がありますか?
山室:
「ちょっと残業してると、『練習大丈夫?』って言われます(笑)。
サッカーの話もよくしてくれます。
『週刊NAGAREYAMA F.C.』(クラブの情報誌)が社内向けにも配信されていて、それを見てくれている人もいますし、毎回僕の写真を切り取ってチャットで送ってくれる人とかもいます。
この前のホームゲームのときも、『2点取ったらスパイク買ってやるよ』って言ってもらって(笑)。
僕は1点しか取れなかったんで、惜しかったです。
試合の映像を何人かで見て、『そこ決めろよ』みたいな話をすることもありますね。」
職場でも、一人の社員としてだけではなく、「サッカーを続けている山室選手」として応援されていることが伝わってきます。
「長くこのチームでサッカーできているのは、チームメイトがみんないいやつだから」

—— 事前アンケートでは、入団して良かったこととして「チームメイトがみんないいやつ」と回答していました。
山室:
「そうですね。
僕が本当に長くこのチームでサッカーできているのも、チームメイトがみんないいやつだからっていうのはあります。
そこは感謝していますね。
最初に面談したときも、(安芸)代表がサッカーだけじゃなくて、人間性のところも見ているという話をしていたんです。
それは実際に入ってみても感じます。」
—— 山室選手から見て、NAGAREYAMA F.C.には、どんな選手が合うと思いますか?
山室:
「いい意味で、真面目な選手ですかね。
このチームって、他のチームよりもいろんな人から応援してもらっていると思うんです。
だから、それを真摯に受け止められる人。
応援してもらうことを当たり前だと思わず、感謝の気持ちを持てるような選手は合っているのかなと思います。
逆に「真面目すぎる」と言われることもありますね(笑)。」
—— 「いい人が多い」と感じる理由も、そのあたりにあるのでしょうか。
山室:
「あると思います。
居心地がいいっていうのもあるかもしれないですね。
いいやつが多いって感じるのも、やっぱり人間としてしっかりしている人が多いからだと思います。」
サッカーの技術だけではなく、周囲への感謝やチームへの姿勢を大切にする。
山室選手が4年間プレーを続けてきた理由の一つに、そんなクラブの文化がありました。
「イベントで人前に立った経験が、営業の仕事に活きている」
—— NAGAREYAMA F.C.で経験したことの中で、仕事にも活きていることはありますか?
山室:
「人前で話すことですね。
もともとすごく苦手というわけではなかったんですけど、そもそも人前でしゃべる機会がなかったんですよ。
NAGAREYAMA F.C.に入って、イベントを通して人前でしゃべることがかなり多くなりました。
今は営業の仕事をしているので、商談もそうですし、製品についての勉強会みたいな形で、結構な人数のお客様の前で話すこともあります。
そういうときに、以前よりうまくしゃべれるようにはなってきたなと感じます。」
クラブの地域活動やイベントへの参加は、一見するとサッカーとは直接関係のない活動かもしれません。
しかし山室選手にとっては、チャンスが多いNAGAREYAMA F.C.での環境と、そこでの経験が社会人としての成長と、スキルにつながっています。
「20年以上サッカーをやってきて、うまくいった経験の方が少ない」
仕事に活きている経験を聞く中で、もう一つ印象的だったのが「失敗との向き合い方」でした。
山室:
「今まで20何年間かサッカーをやっていますけど、逆に、うまくいった経験の方が本当に少ないなって思うんです。
明らかに失敗とか、うまくいかないとか、苦しいっていう思いの方が多かったです。
でも、そのたびに『じゃあ次の練習頑張ろう』ってやってきました。
サッカーでの借りはサッカーでしか返せないと思っているんで。」
試合で思うようなプレーができない。
失点に絡んでしまう。
そんな日は、もちろん引きずることもあるといいます。
山室:
「その日は引きずったりするんですけど、次の練習のときには、もう『こうやってやろう』っていう気持ちに切り替えられるようにはなっています。
その辺は仕事にも活きているのかなと思います。
失敗を恐れずにどんどんチャレンジして、行動量を増やそうと思っているので。
そういうサッカーでの経験は、仕事にも活きていると思いますね。」
成功するまで挑戦し続けること。
失敗を引きずるのではなく、次の行動へ切り替えること。
20年以上の競技生活の中で身につけてきたその感覚は、サッカーを離れた後にも残り続ける力になりそうです。
「応援してくれる人に、プラスのエネルギーを届けたい」

—— 試合に出られない時期や、思うようにいかない時期もあったと思います。それでも今までサッカーを続けてきたのはなぜでしょうか?
山室:
「自分がなんでサッカーしてるんだろうって考えたときに、人から応援されたいっていうのが自分の中にあると思うんです。
応援してくれている人に対して、いい影響を与えたり、プラスのエネルギーを届けたい。
今の自分が持っているものの中で、それを表現できるのがサッカーだったんですよね。」
子どもの頃から、プロサッカー選手になることを夢見てきました。
その原点には、スタジアムで見た景色があります。
山室:
「小さい頃、スタジアムによく行っていたんですけど、あの熱気の中で応援されてプレーするのって、すごく羨ましいなって思っていました。
自分もそういう中でプレーしたいっていうのは、ずっとあったんです。
それが今も活力になっているところかなと思います。」
そしてNAGAREYAMA F.C.には、その思いを感じられる環境があります。
山室:
「今4シーズン目ですけど、他の社会人チームと比べても、うちのチームってサポーターがすごいじゃないですか。
そこもかなり大きいと思います。
応援してもらえる中でプレーできているというのは、サッカープレイヤーとしての生きがいの一つになっています。」
「少しでもサッカーをやりたい気持ちがあるなら、僕はやるべきだと思う」
—— 最後に、高校生や大学生、社会人でサッカーを続けるか悩んでいる人へメッセージをお願いします。
山室:
「社会人になって、より強く思うんですけど、人生って本当に自分次第だと思います。
社会人になれば、ある程度お金もありますし、自分でいろいろなことを選択できるじゃないですか。
だから、本当に自分がどうしたいかだけだと思うんです。」
仕事を選ぶのか。
サッカーを続けるのか。
どちらかに正解があるわけではないと山室選手は話します。
山室:
「仕事との兼ね合いとか、そういうことを気にして、自分の気持ちを押し殺すぐらいだったら、自分の気持ちに正直になって、僕はやるべきだと思います。
僕の同級生でも、同じようにサッカーをやろうか迷って、仕事を選択した仲間がいます。
でも、そういう人から『いいな。俺もサッカーしときゃよかった』って羨ましがられることは多いんですよね。」
働き始めてからも、周囲の大人たちから背中を押してもらいました。
山室:
「今までの職場の上司とか、一緒に働いていた人からも、
『好きなだけやった方がいいよ。その後の人生はどうにでもなるから、若いうちに自分の好きなことを精一杯やりな』
って言ってもらったことがあります。
そういうことを言われると、自分の選択は間違ってなかったんだなって思えます。」
一方で、仕事を優先する選択も尊重しています。
山室:
「幸せって人それぞれなんで、仕事で早めに安定したいというのであれば、全然そっちを選択するのもいいと思います。
でも、本当に少しでも『サッカーをやりたい』っていう気持ちがあるんだったら、僕はやるべきだと思います。
自分の人生は一度きりなんで、自分のやりたいように、後悔しないようにやるのがいいのかなって思います。」
次は「サッカーしかしてこなかった自分」から、知らない世界へ

—— これからチャレンジしたいことはありますか?
山室:
「海外に行ってみたいですね。
僕、海外に行ったことがないんですよ。
今までずっとサッカーしかしてこなかったっていうのもあるかもしれないですけど、旅行をしたいですね。
新婚旅行でハワイに行けたらなと。
実は最近、プロポーズをしたんです。
無事に成功しました!」
—— それはおめでとうございます!なぜ海外に行きたいと思ったんですか?
山室:
「海外に行くと人生が変わるとか聞くじゃないですか。
違う国の文化に触れてみたいなって思います。一回は行ってみたいですね。
でも僕はお腹が弱いんで、行き先選びは気をつけたいです(笑)」
そんな中、仕事でも、ちょうど海外案件に少し関わり始めています。
山室:
「そういう意味では、チャンスかもしれないですね。
海外での仕事もありそうなので、チャレンジしてみたいです。」
これまでサッカーを中心に歩んできた山室選手。
しかし、そのサッカーを続けたことで、仕事に出会い、人と出会い、自分自身の新しい可能性にも出会っています。
「サッカーか、仕事か」ではなく、どちらにも本気で取り組む。
山室選手の言葉から見えてきたのは、そんな社会人サッカー選手の一つの生き方でした。
